最近、様々な業界で「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が聞かれます。日本看護協会でも、看護師の離職防止、職場定着促進を目指して、ワーク・ライフ・バランスの実現を提唱しています。
多彩な勤務形態を導入することで、少しでも長く働き続けられる環境づくりを進めていこうというものです。
PART
1 ワーク・ライフ・バランスを実現するための取り組み
働き過ぎを見直す動き
「ワーク・ライフ・バランス」とは文字通り、「仕事と生活の調和」という意味です。仕事も生活の一部に違いありませんが、ここでいう生活とは、もちろん「プライベートな生活」を指します。内閣府の主導のもとに普及が進められ、各方面で働き方の見直しの必要性が認識され始めました。2008年6月に発表された「カエル!ジャパン」キャンペーンもこの活動の一環で、記憶に新しいところです。
ワーク・ライフ・バランス実現に向けた一般的な取り組みは、どちらかと言えば「男性の働き方の見直し」が主流です。例えば厚労省が開催した「父親の育児休暇シンポジウム〜パパが休むと日本が変わる〜」でも分かるように、「男性も、仕事に追われる生き方を見直そう。家事・育児や近隣との付き合いに積極的に参加しよう」という呼びかけが中心になっている、と言ってよいでしょう。「働き過ぎは改めよう」というキャンペーンも、盛んに行われています。
確かに現代の社会では、「仕事仕事で、家庭生活や地域生活がおざなりになっている」のは男性のほうが多いかも知れません。しかし女性の場合でも、仕事によっては働き過ぎてプライベートな生活がおざなりになるどころか、心身の健康を害する人も少なくないのです。看護師という職業は、その典型と言えるでしょう。
看護師にとって、特に重要な課題
看護の現場では人員不足のため、休みが取れない、残業が多いなどの過重労働が問題になっています。昨年は大阪高等裁判所で2人の看護師の死亡が過労死認定され、それが改めてクローズアップされました。
勤務が多忙でも、若いうちは何とか乗り切れるかも知れません。しかし、結婚、出産、育児などでプライベート生活の重みが増すにつれ、次第に両立が困難になってきます。
内閣府「仕事と生活の調和推進室」の発表によると、仕事をしていた女性の約70%が、出産を機に退職しているそうです。そして退職した女性の4人に1人は、「働き続けたかったが、仕事と育児の両立が難しくて断念した」と答えています。ましてや、交替勤務で夜勤もあるという看護師の場合は、他の多くの仕事よりずっと両立が難しいのです。実際、日本看護協会の調査では、潜在看護師(資格を持っているが、働いていない看護師)の30%が、妊娠・出産を機に仕事を辞めていました。むろん、過重労働に疲れて辞めた人も少なくありませんでした。
ですから看護師にとって、ワーク・ライフ・バランスは非常に身近で、大切な課題と言えましょう。
「ワーク・ライフ・バランス憲章」
内閣府が作成した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、目指すべき社会の姿を次のように定義しています。「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」
「諸外国におけるワーク・ライフ・バランス」
欧米など諸外国でも、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた動きが活発に行われています。 イギリスの場合を例にとると、1990年代半ばからワーク・ライフ・バランスに対する関心が高まり、政府が2000年に「ワーク・ライフ・バランス・キャンペーン」を開始しました。フルタイム労働とパートタイム労働の間での同一労働・同一賃金を法律で義務づけるなど、法制化による条件整備を進めています。
イギリスにおける「多彩な働き方」は、短時間労働やフレックス・タイムなど日本でもよく見られるもののほか、学校の学期期間中だけ働く「学期期間労働」(夏休みなどは家族で過ごすという考え方)、年間の総労働時間を契約し、中身は働く側が調整する「年間労働時間契約制」(集中して働き、休みを多く確保する。曜日によって労働時間を変えるなど自由)など、珍しいものもあります。